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『みんなの文字対談 ~基本編~』を公開しました。

情報

みんなの文字OpenType Pr6N発売記念
~技術・営業対談:基本編~

2020年11月に「みんなの文字OpenType Pr6N」が発売されたのを記念して、フォントの技術面にフォーカスをあてた対談を行いました。
以前からみんなの文字については書体のデザイン的なことはもとより、使える文字や機能、従来製品との使い分けなどについて教えて欲しいという声が多数あったためです。
対談メンバーはお互いによく知った者同士のため、話は時折脱線しながら和気あいあいと進められました。


【対談メンバー】 左:第2営業部・杉山 右:技術部・小澤

<1>ニーズにあわせてStdからPr6Nへと進化

司会M:今日は普段ユーザの声を受けている第2営業部の杉山さんと技術部主任の小澤さんが対談するという形式でみんなの文字の技術的なことを掘り下げていただこうかと思います。それではまず、技術的なことを聞く前に、みんなの文字とはどんな書体なのか紹介していただけますか?

杉山:はい。簡単に言うと、みんなの文字は数あるUDフォントのひとつです。見やすさに配慮してあるのはもちろんですが、特に小さな文字で文章が組まれた時に読みやすいようにデザインされているのが特徴です。例えば生命保険会社が作る帳票類などで使っていただくのが最初の目的でした。世の中にある他のUDフォントと何が一番違うのかというと、第三者認証を取得しているという点です。UCDA(一般社団法人ユニバーサルコミュニケーションデザイン協会)というところが第三者の立場で見やすさと伝わりやすさを評価して認証しているのですが、そのUCDAから唯一認証を取得しているUDフォントです。

司会M:ありがとうございます。完璧だね(笑)。
今回のみんなの文字はOpenType Pr6Nということですが、従来製品であるOpenType Stdと何が違うのか、技術部の小澤さんから説明していただきましょうか。

小澤:まず「みんなの文字ゴシックStd」が出たのが2012年とだいぶ前になります。そのあとお客様の要望に応えて文字を増やそうということで今回Pr6Nを出すに至ったと言う流れです。StdはOpenTypeとしては最小の文字セットです。それに対して今回のPr6Nというのは元号合字の令和も追加していまして、OpenTypeの規格としては最新で最大の文字セットになります。みんなの文字Stdは元々の規格である9354文字に外字8文字を足した計9364文字、対するPr6Nは23060文字に外字8文字を足した計23068文字になります。

<2>JIS90字形とJIS2004字形

小澤:あと一番大きく違うのがStdはJIS90字形ですね。ちょっと難しくなるかもしれませんけど、JIS90(JIS X 0208-1990)(注)の字形が標準で出てきます。Pr6Nの方は、コンピュータで使われる文字の規格がが若干変更された事に伴い、その規格に沿ったJIS2004(JIS X 0213:2004)(注)字形というのが標準的に出てくるようになっています。
また、Pr6Nの方はOpenTypeの異体字切り替えの機能で先ほどのStdのJIS90字形に切り替えることができます。

(注)JIS X 0208は最も基本にして重要な日本語のJIS規格。90年版を最後に字数と字形に変更がないことからJIS90などと呼ばれる。
  
(注)JIS X 0213は2000年にできた日本語のJIS規格でJIS X 0208を補う(字数を増やす)目的で作られた。主に印刷系の文字が多く収録されているのが特徴。2004年に改訂し10文字の追加と168文字の字形が変更された。JIS2004などと呼ばれる。


図. JIS90字形とJIS2004字形  

杉山:あの、どうでもいいことなんですが、JIS2004と言うのに対して、JIS1990とは言わないですよね。

小澤:言わないですね。JIS X 0208は1978年にできて以降、1983年、1990年と改訂していますが、それらを区別するのにJIS78、JIS83、JIS90(あるいは78JIS、83JIS、90JISとも)と下二桁で区別してます。そのあと2000年にJIS X 0213が出ましたが、さすがにJIS00とは言わずにJIS2000と。その後2004年に改訂されてJIS2004とかJIS04と言ってます。人によって言い方は違うと思いますが2000年以前は下二桁が一般的です。

<3>2万字超の広大な文字セット

司会M:字形のことを話してもらったんだけども、次は文字数のことを聞きましょうか。StdとPr6Nでは文字数がだいぶ違うということでしたね。文字数が2倍以上になったと。当然どんな文字が加わったのかが気になりますね。

小澤:一番は漢字ですよね。わかりやすいところで言うと、StdはJISの第1, 2水準漢字(注)をカバーしていたのに対して、Pr6Nでは第3, 4水準漢字まで最新のJISを完全にカバーしたのが大きいですね。それ以外に78字形、83字形、JIS X 0212補助漢字、U-PRESS、大漢和の一部などですね。(注)日本語を定めるJIS規格では漢字の使用頻度に応じて第1~第4水準漢字に分けられている。小学校で習う漢字はすべて第1水準漢字に入っている。

司会M:なるほど。その他非漢字としてはどうですか?例えばいろんな仮名が入っていますよね。何が違うのか気になりますね。

小澤:標準仮名としても濁点や半濁点付きの仮名などが追加されてますが、Pr6Nとして横組みや縦組みに最適化した仮名の領域が用意されています。あと振り仮名用のルビですね。さらに横組み用プロポーショナル仮名、縦組み用プロポーショナル仮名の領域もあります。

司会M:標準の仮名に加えて、横組み専用デザイン仮名、縦組み専用デザイン仮名、ルビ仮名、横用プロポーショナル仮名、縦用プロポーショナル仮名があると。ずいぶんたくさんありますね。

小澤:はい。仮名の種類も追加されていて、普段あまり使う機会がないと思いますけど、例えばアイヌ語のための仮名なども追加されています。

司会M:いろいろな種類の仮名の領域が用意されているけど、みんなの文字Pr6Nの場合、仮名のデザインは同じものが入っているんですね。

小澤:はい。横組み専用デザイン仮名、縦組み専用デザイン仮名には標準とまったく同じものが入っています。横用プロポーショナル仮名、縦用プロポーショナル仮名には同じ形の仮名に文字幅が設定されたものが入っています。

AJ1-6グループ別仮名一覧(PDF)

司会M:杉山さん、わかった?

杉山:うーん、なかなか複雑ですね(笑)。
それぞれがどういう場面で使えるのか気になりますね。当然アドビ製品では使えるでしょうけど、その他どんなアプリケーションで使えるのでしょう?例えばWordで使えますか?

小澤:残念ながらWordでは使えませんね。標準以外の仮名についてはUnicode(注)が当たってるわけではないので、アドビ製品とか高度なOpenType機能を実装したDTP用のアプリケーションでしか使えないですね。異体字表示機能であるIVSは漢字専用の機能なので、hkna(横組み用仮名)とかvkna(縦組み用仮名)はサポートしていません。(注)ユニコードと呼ぶ。全世界の言語を収容することを目的とした文字集合で現在のコンピュータは文字をやりとりするのにすべてこのUnicodeを使用している。

司会M:プロポーショナル仮名って使ったことないんだけど、例えばアドビの製品で普通の仮名で文章が組まれていたとして、あとから一斉にプロポーショナル仮名に変換することができるの?

小澤:できたと思います。pkna(プロポーショナル仮名)っているタグがあるんですよ。InDesignとかIllustratorだとOpenType機能のプロポーショナルメトリクスを選択するとプロポーショナル仮名に切り替わります。

杉山:オプティカルとメトリクスと和文等幅ってメニューがありますよね。

小澤:メトリクス(文字幅の数値)がフォントの中に入っている情報ですね。フォントメーカーが設定した数値にしたい場合はメトリクスを選択してください。オプティカルはアプリ側で文字の形を見て判断している自動設定です。ただオプティカルは横組みでしか使えなかったと思います。


図. InDesignにおける文字のカーニングメニュー

杉山:これはStdには無い機能ですか?

小澤:Stdにもあります。Stdにはプロポーショナル仮名の領域はないんですが、メトリクス用の数値は入っていて、設定するとプロポーショナル仮名に変換したような詰めになります。ただPr6Nでは数値が見直されているので若干変わる可能性はあります。基本的にフォントが違うと数値も変わるので注意が必要です。

<4>さまざまな記号が充実のPr6N

杉山:あと、丸付きとかカッコ付きなどの記号が増えてますよね。これは一般の人からするとめちゃめちゃポイント高いんですけど。

小澤:Pr6Nはあとから出たこともあって採用しているUnicodeのバージョンが相対的に新しいんですよ。字種が増えただけでなくてUnicodeがあたるようになったのでWordなど一般のアプリケーションでもたくさんの文字が使えるようになりました。

杉山:それ言われたことあります。Stdでは使える文字が少ないよねと。用途によっては丸付きとかカッコ付きとか使う人は使うんですよね。その他四角入りとか白黒反転とか。数字系は結構大きいですね。丸入り数字とかはハードル低くへーって思える。

小澤:使える文字の一覧を用意します。

AJ1-6非漢字一覧(PDF)

<5>アドビ系はOpenType、Office系はTrueType

杉山:今回のPr6Nが出る前、2019年8月に「みんなの文字0213N」TrueTypeフォントが出ましたけど同じなんですかって聞かれる。0213Nに入っているJIS X 0213とJIS X 0212(注)がPr6Nにも入っているんだったら、0213Nは必要なくてPr6Nで置き換えられるんじゃないかって話になるんですけど。(注)1990年にできた日本語のJIS規格でJIS X 0208を補う目的で作られた。主に情報処理系の文字が多く収録されているのが特徴。漢字部分を補助漢字と呼ぶことがある。

小澤:両者で共通しているのはJIS X 0213それからJIS X 0212の文字、逆に違うのはPr6NにはAJ1固有の文字が入っている感じでしょうか。

杉山:入ってる文字だけ見ればそうですね。それ以外にDTPをやるんだったらPr6Nで良いと思うんですけど、それ以外の例えばOfficeユーザだとPr6Nだと使いにくくなる場合ってあるじゃないですか。

小澤:WindowsとOpenTypeの組み合わせではPDF関連でトラブルの可能性はありますね。

杉山:まず作業環境によってTrueTypeが向いてる人とOpenTypeが向いてる人がいると思います。

小澤:まあ大きく分けると、OpenTypeはDTPアプリを主に使う方、TrueTypeが向いてるのはMicrosoft Officeを主に使う方かなと思います。Pr6Nってグリフは一杯入ってますけど、Unicodeでアクセスできないものも一杯あるんです。なのでアプリが高度なOpenType機能を持っていないと、フォントに実装していてもそのの恩恵はあまり受けられないと言うことができると思います。
それに比べるとTrueType0213Nの方は基本的にはUnicodeでアクセスできる範囲のグリフを収容しているので、特別なアプリでなくても使える文字がかっちり入っているという感じです。

杉山:OfficeユーザにとってはOpenTypeはオーバースペックということですよね。

小澤:見方によってはそうなりますね。フォントに収容していてもアプリによっては使えない文字がたくさんあるので。今はOfficeを使ってるけれども将来的にDTPアプリに移行するだとか予定があるのならOpenType Pr6Nを使っても良いのかなと思います。

杉山:じゃあ大雑把に言うと、OfficeユーザにはTrueType0213N、Adobe製品などDTPアプリユーザにはOpenType Pr6Nということが言えますね。

<6>もはやトラウマ?WindowsとOpenTypeの気になる相性

司会M:先ほど、PDF絡みのトラブルという話が出ましたが具体例ってありますか?

小澤:よく言われるのがOpenTypeとPowerPointの組み合わせですかね。これはフォント側の問題ではないのでどうしようもないんですけど、アプリによってGIDとCIDを適切に処理できないという問題があって(注)、画面上では表示されていてもPDFにすると文字化けするとか、画面通りのレイアウトにならないという話はありますね。(注)OpenTypeではCIDという番号でグリフを呼び出すが、TrueTypeではGIDでグリフを呼び出す。CID=GIDとは限らないためアプリケーションが適切な実装をしていないと問題が起きる。

杉山:PDFを書き出すときにアドビのAcrobatだったら全然問題ないですけど、違うやり方をすると画像になっちゃうとかありますよね。印刷メニューから「Microsoft Print to PDF」を選んだらOpenTypeが文字化けしたということがありました。TrueTypeにしたら治ったんですけど。

司会M:まあその辺のトラブルに関しては時々刻々と状況が変わっているので具体的に言いづらいけれども、OpenTypeの場合、Office製品やPDFの生成方法によっては過去にトラブルが報告されている。従ってOffice製品を使う人にはTrueTypeがおすすめということになりますかね。

小澤:そうですね。考え方としてはMicrosoft OfficeではTrueTypeが標準サポートでOpenTypeがおまけというかあとから追加されたものなので、OpenTypeはTrueTypeに比べると少し甘いというかトラブルが多い。まあ昔に比べればだいぶ解消されてきてはいますけど。

杉山:それはWindowsのOfficeがっていうことですね。

小澤:そうですね。あまりMacではトラブルを聞いたことがないですね。そもそもMacでOfficeをガンガン使っているユーザが少ないからかもしれない。

司会M:昔はWordで1バイト文字(半角などの文字)と2バイト文字(全角文字)がくっついちゃったりとか、いつの間にかBoldがかかったりとかひどかったなぁ。OpenTypeが使えないアプリもあったし。そういうのが多くのWindowsユーザにとってトラウマになってるんだよね。

杉山:WordでOpenTypeを使うと行間が広がりますよね。

小澤:あれはOpenTypeのせいじゃないんです。特定の文字サイズで急に行間が広がるのは、「行グリッド線に合わせる」という機能がデフォルトでオンになっているからだと思います。Wordがフォントの中の最大字面の情報を見て文字がくっつかないように自動で行間を広げているんですよ。
一般的にOpenTypeの行間が広がると思われているのはTrueTypeに比べてたくさん文字が収容されているからなんです。例えばアクセント記号なんかが文字の上下にくっつくラテン文字などです。そうすると自然とY方向の最大字面が大きくなってしまうんですね。あとはMS明朝なんかは伝統的に英数字などが全角の仮想ボディに入るような文字デザインになっている。ディセンダーが短いデザインというのかな。その影響が大きいですね。

杉山:そうするとTrueTypeでもディセンダーの大きい文字を入れるとWordでも行間は広がると。

小澤:そうです。OpenType、TrueTypeのフォントフォーマットは関係ありません。

杉山:だから選択する書体によって行間が変わるんですね。

小澤:段落オプションで行間を自動(1行)にした場合ですね。もちろん手で数値を入れれば任意の行間に変更できます。

<7>WindowsとTrueTypeの密な(!?)関係

杉山:WindowsにはなぜTrueTypeなのかっていう話は興味ありますけど。

小澤:それはWindowsはTrueTypeが標準だからっていうことですね。

司会M:Windowsがこの世に出て最初にサポートしたのがTrueTypeでしたね。Windows3.1(1992年)の時のMS明朝ですね。それであとのバージョンになってOpenTypeがサポートされたんですよね。

小澤:そうです。MacはビットマップのあとにTrueTypeが来ましたけれど、そのあとにAdobe Type ManagerでPostScriptフォントをOSに半分統合するような形になって、OS XではOSの描画エンジンがPDFベースになっていてTrueTypeもOpenTypeもきちんとサポートしてるのでトラブルが起きにくいと言えると思います。
その点WindowsはPostScript系のOpenTypeのOSへの統合がいまだに不十分なのでアプリの実装によってはきちんと扱えないっていうような振る舞いをするのだろうなと理解しています。


図. OpenTypeフォントの変遷

司会M:WindowsでCFF系のOpenTypeがサポートされたのってWindows 2000(2000年)からだったかな。つまりAdobe Type ManagerがいらなくなったのがWindows 2000から。そのあとWindows XP(2001年)と続いた。OpenTypeがOS標準でサポートされてからでも色々とトラブルを抱えながらっていうのがWindowsユーザの実感かな。

小澤:アドビの人に言わせると、アドビはだいぶ以前からマイクロソフトに情報は提供してるよ、でも変わらないんだよ、っていうことらしいです。

杉山:あとはOSの標準フォントがMacOS XはOpenTypeなのに対して、WindowsはずっとMS明朝とかメイリオとかTrueTypeで来ているというのも関係しているのかもしれないですね。

小澤:本当の意味でのOpenTypeのサポートはまだしていないということなんだと思います。TrueTypeの拡張としてのOpenTypeのサポートはしているけれどもCFF(PostScript)系のOpenTypeのサポートは完全にはできていないのだと思います。