書体開発の姿勢

1920年の創業以来、私たちは 金属活字、写植、デジタルフォント という三つの時代を経て、常に書体の可能性を追求しています。新聞書体や教科書体、日本初のユニバーサルデザイン(UD)書体といった現在の生活の中で見かける書体の礎を築き、文字を通じて人と情報をつなぐ役割を担い続けてきました。

近年では、手彫り活字の魅力を現代的に解釈した『イワタ福まるご』が印刷からアプリまで幅広く活躍。さらには漫画家・弐瓶勉氏原案の『東亜重工』や、イラスト・漫画制作アプリ「CLIP STUDIO PAINT」用にユニークな機能を搭載した『Clip Studio Comic』など、コラボレーションフォントの開発にも力を入れています。

長い歴史の中で培った技術と美意識を受け継ぎながら、新たな時代にふさわしい書体の創造に挑戦しこれからも進化し続けます。

イワタ書体の理念

  • 可読性に優れ、目に穏やかでなければならない
  • 美しく品位がなければならない
  • 独善を排し、一定のルールに従って統一的なものが表現されること

書体開発のパイオニア

今では当たり前のように日常で使用されている書体や技術も、かつてイワタがその先駆けとなって開発したものが少なくありません。

新聞書体

新聞の文字が平べったい形(扁平)をしているのはご存じでしょうか。昭和13年(1938年)、物資統制の影響で質の悪い紙とインキ、さらに記事を詰め込むために小さくなった文字によって印刷が不鮮明になり、文字と視力の問題が取り沙汰されるようになりました。その時に新たに考案したのが縦0.087インチ、横0.100インチの新活字、すなわち新聞用扁平活字でした。これが朝日新聞で採用され、太平洋戦争に突入した昭和16年(1941年)12月8日の紙面に初めて登場しました。この活字は字面はほとんど7ポイントと同様で、読みやすくしかも上品で、記事の収容量が変わらないと評判になり、朝日の紙面を見た全国各紙から新活字の母型の注文が殺到しました。そしてこの新活字は新聞活字の大勢をリードするに至りました。あれから80年以上経ちますが、今でも新聞の文字といえばこの扁平文字と言われるほど業界に浸透しています。

ベントン彫刻機

ベントン彫刻機とは、文字の部分が凹んだパターン(金属板)をフォロア(針)でなぞると、パンダグラフの原理で様々な大きさの母型が彫刻できるというものです。昭和25年(1950年)、当時のイワタ(岩田母型製造所)は日本の母型業者として初めてベントン彫刻機を導入しました。しかし当時の機械は日本語固有の問題、例えば字画の多さや明朝の横線幅や払いの先端が細い等に対応しているとは言い難く、精度と性能を上げるため、彫刻用カッターの研磨技術と彫刻に適した原字デザインの両面から独自に研究・開発しました。その結果、母型の大幅な高精度化と大量生産を実現し、日本最大の母型製造工場に成長しました。同じころベントン彫刻機を使用して開発した「岩田明朝体」が広く受け入れられ、全国シェアの65%を占めるに至りました。岩田明朝体は現在もなお「イワタ明朝体オールド」として多くのユーザに使用されています。

教科書体

教科書体の歴史は比較的浅く、昭和30年代後半に書体としての呼び名や地位が確立しました。当時のイワタ(岩田母型製造所)は教科書に使用する書体として、その黎明期から書体デザインや文字セットを精査しブラッシュアップを重ねてきました。具体的には1955年(昭和30年)、楷書の漢字活字と組み合わせるために新規開発した「教科書用かな」を発表し、正しい筆法や書き順、画数がわかるように配慮。1959年(昭和34年)に楷書漢字を改良し「教楷書」と改称。現在のイワタ教科書体のベースができました。その後、さらに書体としての完成度を高めるべく、ベントン彫刻機で製作し、さらに文部省出身の専門家と字形を精査・修正した結果、現在のイワタ教科書体が完成しました。この教科書体はモリサワや写研などの写植メーカー、日本電気・富士通・キヤノンなどのシステムメーカー、その他のフォントベンダーなどへOEM提供され、教科書体としての地位を不動のものとしました。

OEM書体

イワタは様々な書体を開発してきましたが、自社用のみならず、お客様専用書体も多く製作してきました。字形にこだわるお客様専用の字形を持つ書体、特定の製品や業界向けの文字セット、他社と差別化するためのオリジナルデザイン、専用の機械やプログラムに対応するためのデータ形式など、お客様一人一人と向き合い多くのOEM書体を開発・提供してきました。活字時代から数えると数千書体にのぼります。OEM書体の製作は単にお客様の指示通りのモノを作る作業ではありません。お客様の想像以上のものを具現化できる技術と経験があってこそ成立します。長年に渡る実績は書体のプロフェッショナルこそがなせる技なのです。

ユニバーサルデザイン(UD)フォント

今でこそエコやUD、SDGsへの配慮が当たり前の社会になっていますが、2000年代初頭はUDという言葉を耳にする機会すらほとんどありませんでした。そんな時代に松下電器(現パナソニック)は従来健常者向けに作っていた全製品をUD対応することを宣言。同社のUD研究の一環として、イワタは文字のUD、すなわち文字の見やすさ・読みやすさの研究に協力しました。その結果、パナソニック全製品への使用を義務づけたパナソニックUDフォントを開発・納品。その後、同製品をイワタUDフォントとして発売し、UDフォントとして世界で初めて市販化しました。その後、UDフォントは世の中から圧倒的な支持を得るだけでなく、他のフォントベンダーからも発売され、印刷業界のみならず、公共機関・新聞・教育・金融などを巻き込むUD特需をもたらしました。

様々なオリジナル書体

・イワタ福まるご
一般的に丸ゴシックと言えば、角ゴシックの角を丸めた書体を言います。しかしイワタ福まるごは根本的にフォルムを見直しほとんど直線を使用しない独特の丸ゴシックを実現。その世界観は見た者を思わず「かわいい」と言わせるほどオリジナリティーに溢れています。                   ・東亜重工フォント
福まるごに負けず劣らず独自の世界観を持つのが「東亜重工フォント」。漫画家・弐瓶勉氏の無機質な線と省略された字体をベースに、それまで不可能とされてきたフォント化を実現。今まで書体に興味がなかった人たちも熱狂の渦に巻き込んでいます。                           ・イワタミンゴ
新聞の本文書体と言えば、長く明朝体が用いられてきました。しかし近年その常識が覆されつつあります。世の中の媒体は様々な書体で溢れており、コンテンツによって書体を使い分けることが当たり前になりました。古い伝統に縛られてきた新聞もようやくその呪縛から解き放たれ、記事の内容によって様々な書体を使い分けるようになりました。その一翼を担っているのがイワタミンゴです。政治経済などお堅い記事は従来通りの明朝体を、文化面やフィーチャー(特集)面、テレビ番組表などにはイワタミンゴと使い分けることにより、特に高齢読者を中心に記事の読みやすさや読書意欲の向上に寄与しています。

スピーディーかつ柔軟な対応力

イワタがデジタル部門を発足した1988年(昭和63年)から今に至るまで、事業の中心は受託開発、つまり特注フォントとなっています。その内容は市販フォントの一部変更から全く新しいオリジナルフォント製作まで。イワタはお客様のあらゆる要望にスピーディーかつ柔軟に対応するデザイン力、技術力を持ち合わせています。

高い専門性を持つプロフェッショナル集団

フォント製作は、①基本文字デザイン、②文字拡張、③エンジニアリング、④納品・サポートという流れとなりますが、それぞれの工程に高い専門性を持つスタッフを配置しています。しかも今どきのフォントベンダーには珍しく、外注を使わず全員がイワタというひとつ屋根の下で仕事をしています。すべては高品質、短納期を実現するためです。

コンサルティングサービス

イワタは長年、紙媒体からデジタル媒体まで幅広い分野に対応し、多くの実績を積み上げてきました。その中には使用されるコンテンツや媒体に適した書体やウェイト、文字コードや機能をイワタがアドバイスしながら完成した特注フォントも少なくありません。イワタは単にお客様の指示通りにフォントを作るだけでなく、時には製品の用途や使用環境などを考慮しながら課題解決とより良い提案をするためのコンサルタントとしてお客様を支援します。

フォント技術への対応

フォントフォーマット技術および文字コードは日進月歩です。CID、TrueType、OpenType、Webフォントなどのフォントフォーマットの他、外字や多言語などの特殊な文字セット、IVSやGSUBを使用した異体字切り替えに対応した特注フォントを納品した実績を持つほか、カラーフォントやバリアブルフォントにも早くから取り組み、お客様の製品への最適な技術提供と付加価値向上に寄与しています。

様々な分野・業界への対応

フォントは一見同じように見えても、実は搭載する製品や業界によって中身が異なります。例えば、対応する教科書ごとに異なる字形を持つ学習参考書用の教科書体、使用する製作システムごとに文字セットとフォーマットが異なる新聞書体、看板・シルクスクリーン印刷・帳票類・スマホやタブレットの表示用にそれぞれデザインをカスタマイズしたUDフォント、業界ごとの外字が付加するARIB外字、MUSIC外字など。エンドユーザの利便性をとことん追求するお客様のこだわりの数だけ特注フォントが存在します。

様々なライセンスプラン

フォントはお客様によって使い方、使用数量、ライフサイクルなど様々です。イワタではお客様のご希望に沿うよう様々なライセンスプランをご用意しています。
例えば、企業や事業部の中でお使いいただけるサイトライセンス、5年や10年など一定の期間だけお使いいただける時限ライセンス、製品の売り上げ数量に応じてお支払いいただくロイヤリティなどです。